スーパーボール

部長の短編小説。

 

「お祭りで《すくう》ものといえば?」
「金魚~!」
小学生はこんな返事をする。
スーパーボールすくいはあまり馴染みがないようだ。
誰もが一度は必ずやったことがあるはずなのに…

俺はお祭りを楽しんでいる子どもの顔が見たくて、スーパーボールすくい屋を始めた。
けど、金魚すくいをやりにお祭りに来ている子どもからすれば、俺の出店は眼中にも無いようだ。

スーパーボールはスライムと同じ要領で作る。

PVA洗濯のり、ホウ砂、水を混ぜるのはスライム。
だが、スーパーボールは水ではなく飽和食塩水だ。
食塩の性質で程よく水が抜けるためである。
抜けた水はキッチンペーパーで拭き取る。


俺の作ったスーパーボールは弾んだ。

仲良い夫婦の会話のように弾んだ。
俺も昔はスーパーボールのように弾んだ会話を妻としていたな…
でも俺が急に「スーパーボールすくい屋をやろう!」となんて言ってしまったから…

スーパーボールすくいは金魚に比べ、売り上げが少ない。つまり収入も少ない。
俺は借金をしてまでもスーパーボールすくい屋を続けたかった。
しかし、借金は増えるばかり。
ついに、借金取りが家に来るようにもなった。
おかげで、家庭は崩壊。
妻は思春期の娘と共に家を出ていってしまった…

だが、どん底で明日に悩んでいた俺に転機が起こった。

空前の「インスタ」ブームだ。これは神からの贈り物のようだった。
インスタはカラフルだと、「インスタ映え」するらしい。
スーパーボールは色々な種類があり、色も形も多種多様
ビニールプールに入った俺のスーパーボール達は「インスタ映え」した。
そのおかげで、俺の店は繁盛し、借金は完済。
出ていった妻とも、再び同居することとなった。
思春期の娘とも、笑いあえるようになった。

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